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溺れるしあわせを綴る雑記ブログ

江國香織『犬とハモニカ』を読んだ感想・あらすじ・気に入った文章のまとめ

江國香織さんの『犬とハモニカ』を読みました。短編集です。それぞれのお話について、簡単なあらすじと気にいった文章をまとめていきます。

江國香織の『犬とハモニカ』を読みました

空港の国際線到着ロビーを舞台に、渦のように生まれるドラマを、軽やかにすくい取り、「人生の意味を感得させる」、「偶然のぬくもりが、ながく心に残った」などと激賞された、川端賞受賞作。恋の始まりと終わり、その思いがけなさを鮮やかに描く「寝室」など、美しい文章で、なつかしく色濃い時間を切り取る魅惑の6篇。
引用:犬とハモニカ (新潮文庫)

「犬とハモニカ」感想と気に入った文章

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日本にスキーを教えに、ボランティアにやってきたアリルド。
妻と娘を迎えに、空港まで車を走らせる賢治。
ロンドンで暮らす娘一家に会いに行った、寿美子。
賢治の娘、花音。
浮気をしているビジネスマン、森也。


同じ場所、同じ時間を共有する、別の人々の視点が交差する短編。


中心にいるのは、その視点からの文章はないけれど、ハモニカを吹き鳴らす男の子と、その家族たち、そして荷台に載せられた檻の中の犬、ロジャー

「だからね、今度飛行機に乗るときには、ハムも檻か箱に連れて行けると思うの」


ハムは大きなぬいぐるみのこと。離婚寸前の賢治と妻に、花音はそういう。見知らぬ「へんな家族」と同じようになった自分たち家族を想像したのかな。このできごとで、離婚がとめられるといいなとおもう。花音のために。


「寝室」感想と気に入った文章

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浮気相手の理恵にすてられた、文彦の夜のこと。

放心。これはほとんどそれだ、と文彦は思う。自分の人生から理恵がでて行ってしまったとはとても信じられない。悲しむことさえおそろしくてできない。

のに、妻の寝ている寝室へもどると文彦はうってかわる。

あなたは正直ね。
理恵がひそやかに微笑んで、そう言う声が聞こえた気がした。


文彦の事は全く理解できないが、理恵の賢明さと強さは尊敬に値するとおもう。

「おそ夏のゆうぐれ」感想と気に入った文章

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孤独を誇ってさえいた志那がおぼれている男についてのことと、現実のゆうぐれの話。


その男を、文字通り食べるシーンに息をのんだ。

そんなに大きなものではないのに咀嚼しても溶けず、かみしめるとかすかに潮の味がした。海の風味が。


突っ立っている女の子をみて、思い出す懐かしさの断片がいい。

金魚の絵のついた如雨露を、志那は思い出した。中略。しゃぼん玉液を作るのに使った食器用洗剤の色や匂いを。恋人も親友もなしに、そんなものを欲しいともおもわず、そこにいた自分を。


たしかに、わたしもその光景を昔みた気がする。


「ピクニック」感想と気に入った文章

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妻の杏子とピクニックをする男のはなし。


幸福にみえる夫婦の、二人にしかわからない不安定さ。杏子がピクニックをしたがる理由がわかるような、わからないような。

「だって、外で見る方が、あなたがはっきり見えるんだもの。あなたの大きさとか、手のかたちとか、声とか、気配とか」


芝生の描写があまりに的確。

こんなに晴れて、春というにはまだ肌寒い、空気の乾いた真昼だというのに、それは湿っている。


芝生のうえに押し倒された杏子のこの一言も。

「それに首がつめたい。草がざりざりしてるわ」


さみしいかんじのはなしだった。あまり好みではない。

「夕顔」感想と気に入った文章

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源氏物語の訳。夕顔の花のような、庶民的な女との恋のはなし。


和歌の訳がすごくすき。

光を見たと思ったけど
あれはたぶん
黄昏どきの
見まちがい


もともとはこう。

光ありと
見し夕顔の
うは露は
黄昏時の
そら目なりけり
引用:紫式部 與謝野晶子訳 源氏物語 夕顔


で、現代語訳はこんな感じ。

「光輝いているように見えた夕顔の上の露は、黄昏時(たそがれどき)の見間違いでした」
引用:『源氏物語』の現代語訳:夕顔11


江國香織さんの現代語訳は、とてもセンスがいいのだなとおもう。


女は生き霊に呪われて死ぬ。そのあとの彼の言動が親身にせまる。

「まさかほんとうにいなくなるわけじゃないでしょう?」
彼は微笑みさえした。取り乱すわけにはいかないと思った。自分が取り乱せば彼女が不安がる。それでひたすら話しかけているのだった。

「彼女はちょうちょが好きだったよ」


この6編のなかで、夕顔がいちばんすきかもしれない。

「アレンテージョ」の感想と気に入った文章

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パートナーのマヌエルとバカンスにきた男のはなし。


宿泊した場所の描写がとくにすき。

群生する野あざみが咲いたまま枯れている一画があるかと思えば、蔓薔薇が雨のように満開の枝を垂らす一画があり、


マヌエルと男は不安定ながらも、しばらくはいっしょにいるのだろうな。

「ルーイーシュ」

「マーヌエール」


じゃれ合う二人の空気間が、とてもいいとおもう。



夕顔が一番で、次におそ夏の夕暮れが好みでした。